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昨年2016年に出版され話題になったある本があります。
『キリンビール高知支店の奇跡 勝利の法則は現場で拾え!』(田村潤著/講談社)。
地方の支店が理念と現場力でV字回復するストーリーが話題を呼び、新書としては異例の21万部を突破。書店でご覧になったことのある方も多いのではないでしょうか。
キリンビール高知支店をV字回復させた「バカでもわかる単純明快」
1995年当時業績が落ち込んでいたキリンビール高知支店の支店長に就任した田村潤さん。
就任時、結果が出ない理由を、できもしない目標をどんどん下してくる本社が悪い、能力の低いメンバーが悪いと、当事者意識に欠ける「負けている組織の風土」がありました。一方、田村さんが原因を酒販店からは「キリンよりアサヒのセールスの方が一生懸命回っている」という声が。シェアを取り戻すには信頼を回復する必要がある⇒信頼を回復するには営業の訪問数を増やさなくてはいけない。高知県の料飲店は約2000、営業マン9名でカバーするには月200件訪問しなくてはいけない、ということが分かりました。
しかし当時の訪問件数は月30-50件。そこで田村さんは支店の壁に1枚の紙を貼ります。「バカでもわかる単純明快」。当時、本社から様々な施策が出ていましたが、料飲店営業への戦略に絞り、信頼を回復するためには200件回らなくてはいけないという単純な考え方に徹底させました。その上で、目標に達しない場合、原因を追究・改善していく「結果のコミュニケーション」も実施。4カ月もすると、営業マン達も「とにかく訪問する」という活動に慣れはじめ、次第に数をこなせるようになり、料飲店側との信頼関係が築かれるようになりました。
そして、この信頼関係と、そこで得られた顧客の声から、その後高知支店では、地域密着の様々な施策を次々と展開。ついには一度アサヒに奪われたシェアを奪回してしまうのです。
<田村潤>キリンビール入社後、岡山工場労務課、本社人事、労務部門を経て、1995年、高知支店長に就任。当時、同社内でも最下位ランクの業績だった高知支店において、企業理念の浸透、それに基づいた行動スタイルの改革を行い、支店長就任6年後、県内トップシェアを奪回、V字回復させた。その後、四国、東海地区の営業本部長としてそれぞれの地域のシェアを反転させ、本社代表取締役副社長、営業本部長に就任。高知、四国、東海で学んだ「勝ち方」を全国で展開し、2009年、ついに全国でのキリンビールシェア首位奪回を果たした。
19年間連続成長を達成したハーレーダビッドソンジャパンの「凡事を非凡に徹底」する営業革新
大型オートバイのハーレーダビットソンを日本で販売するハーレーダビッドソンジャパン(HDJ)。その社長に就任した奥井俊史さんは、オートバイ市場全体が縮小していく中で、19年連続成長を達成します。その背景には、「与えられたものを売る」という販売における凡事の徹底がありました。
例えば、社長就任当時、冬にはオートバイは売れないという通説がありました。冬には雪が降り、地面が凍り、オートバイに乗るのは危険で、お客様はオートバイに乗れないから、店に来れないし、売れない。という理屈で、実際多くのオートバイ販売店は1年を半年の活動でまかなっていたところが多かったと言います。
「売る」という凡事を徹底する上で、冬だからと言って販売を放棄してはいけない。そう考えた奥井さんは、冬場に展示会や試乗会を開催。当初「常識がなさ過ぎる」と非難される中、蓋を開ければ、予想以上に売れたという事実。言われてみれば当たり前ですが、「乗る」ことと「売る(買う)こと」を混同してはいけないという実践結果に基づく意識改革を行ったのです。
業界の固定観念にとらわれず、「売る」という単純な目標のために何をすべきかを徹底する改革により、縮小するオートバイ市場の中で、なんと19年間連続成長を達成してしまうのです。
<奥井俊史>1990年ハーレーダビッドソンジャパン代表取締役就任。就任当初、全盛期の6分の1までに縮小していた国内オートバイ市場にあって「イベントマーケティング」や「独自のCRMシステムの構築・活用」など、さまざまな施策を考案。「パーツが無い」「壊れる」といった従来のイメージを大きく変え、ものではなく、価値を売る営業改革を実行した。2000年には751CC以上、2003年には401CC以上のオートバイ登録台数でトップシェアを記録。就任中は、19年間連続成長を達成。
今回は、ビールとオートバイという全く異なる業界の営業・販売戦略の事例の一部をご紹介しました。
共通点として、
●業績の上がらない組織には、売れない原因を自分ではなく他者や周りの環境に置いてしまう傾向があり、そのために本質的な原因が分からなくなってしまっている、という雰囲気がありました。
●その上で、慣れてしまった考え方・固定観念を打ち壊すには、これまでの習慣を見直し、「"売る"ために何をすべきか」、という「当り前」のスタートラインに、まず立ち戻ることで、意識改革、行動改革、営業改革が始まっています。
「当り前のことを当たり前に」というのは、新人研修でも良く言われることですが、個人に留まらず、組織においても重要なキーワードと言えます。