先月から話題になっている海外格安ツアーのトラブル。業界の厳しい環境を知るきっかけにもなりました。このニュースを見ながら頭をよぎったのが、格安航空券を武器に急成長したH.I.S.のこと。厳しい環境の中でも地位を維持し続けているなぁと、そのすごさを改めて感じます。
さて、そんなすごさの一端を語ってくれるのが、H.I.S.がまだ無名で、社員も全国で25人しかいなかった創業3年目の頃、創業者の澤田秀雄さんから福岡営業所の責任者に抜擢され、急成長のキーパーソンとなった大野尚さんです。
<大野尚>学生時代のヨーロッパ旅行をきっかけにイタリアに遊学、精力的に世界を巡る旅を始め、これまでに訪れた国は121か国。様々な仕事を経験した後、偶然の出会いがきっかけで当時は無名だった旅行会社エイチ・アイ・エス の創業に参画。九州・中国地方を自ら切り開き、独立採算制の下、年間3000万円に満たなかった九州中国内の売上を百数十億円まで伸ばす。2004年より自己の会社ビッグ・フィールド・マネージメントを設立。詳しいプロフィールはこちら
ただ安いだけじゃダメだった
H.I.S.の創業は1980年。今でこそインターネットを使えば個人でも自由に安く航空券を手配できる時代ですが、当時の格安航空券となれば個人ではそう簡単にお目にかかれなかったはず。
さぞや需要があっただろう・・・
と思いましたが、大野さんのお話を聴くと、実は当時の福岡営業所は300万円の赤字。
ただ格安航空券を売れる、というだけで商売になるほど甘い世界では無かったようです。
独立採算制で赤字は自分で被らなくてはいけない状況。しかも営業所はアパートの1室で、スタッフはアルバイトを含めて3人。人・モノ・カネがとにかく無い。そんな中、大野さんは「とにかく前に進むしかない。福岡ナンバー1、九州ナンバー1になろう!」と決意します。
一切売り込まない旅行説明会
まずは福岡市内の大手旅行会社の店舗を歩き周ってみることにした大野さん。お客さんとして他者の店舗に入って旅行に関する質問をし、対応の研究し始めました。しかし質問してみると、窓口の担当者は「ちょっと待ってください」と、すぐに答えられません。
「自分たちの提供するサービスについてすぐ答えられないのか・・・」
当時の福岡営業所のスタッフは、大野さんを含め、皆バックパッカーや遊学経験者の集まり。旅先のことは実体験から当り前に答えられる面々でした。そこで大野さんは気付きます。旅の経験豊富なスタッフの生の情報。そこに勝機となる大手との「すき間」を見つけたのです。
このすき間を狙って始まったのが月1回の「旅行説明会」。
スタッフの実体験から、「いかに旅が楽しいか」だけを伝える説明会。サービスは一切売り込みません。しかし生の情報に触れた参加者たちは、一切売り込みを受けないにも関わらず、半年、1年後には買ってくれるように。
且つこのユニークな取り組みはメディアでも取り上げられ、大手さんからもお客さんを紹介してもらえるようになったと言います。
H.I.S.のすき間を狙った企画はその他にも。例えば、ビジネスクラス、ファーストクラスでの世界一周航空券。世界一周自体は以前からありましたが、ビジネス・ファーストで、というのは無かったそうです。しかもビジネス・ファーストなら10%値下げしてもビジネスになる・・・ということで、これまでに無かったリッチな世界一周を発案し、人気企画に。こうした例は枚挙にいとまがありません。
"すき間"を見つけ続けるH.I.S.
こうした考え方は、やはり創業者の澤田秀雄さんの影響が大きいようです。その勢いは、ハウステンボスの再建や、昨今話題のロボットが案内してくれる「変なホテル」等、留まることを知らず。格安航空券でスタートした同社が今日でも元気なのは、変わりゆく時代の中で「すき間」を見つけ続けているからかもしれません。