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前回「すき間」を狙うHISの視点についてお伝えしました。
すき間=「ニッチ」。他人がやっていないところを見つけ、それに工夫して取り組むのか。「何か"ニッチな新しいビジネス"は無いか」と日々考えを巡らせている方も多いかもしれません。
しかしニッチビジネスを攻める!という潮流がある一方で、逆に「ニッチは狙うな」と提言をする人もいます。
ニッチを狙うな?ネットビジネスの世界から
ソフトバンク前社長室長の嶋聡さん。孫正義の参謀と呼ばれ、同社急成長のキーパーソンとなった人物です。嶋さんは言います。
「すき間はすき間のまま終わることが多い。」
ソフトバンクといえば積極的な投資戦略が有名です。その中で嶋さんは、ソフトバンクがインターネットの世界で同社が成功している理由として、その事業が「世界にスケールするかどうか」を重視していることを挙げます。
<嶋聡(しまさとし)>松下政経塾二期生として松下幸之助塾長に直接教えを受ける。1996年から2005年まで衆議院議員。3期連続当選の後、「政から民へのトップランナーになりたい」と孫正義社長を補佐するソフトバンク(株)社長室長に就任。以後、2014年までの8年3千日でソフトバンクを売上高1.1兆円から6.7兆円のグローバル企業に飛躍させ「孫正義の参謀」と呼ばれる。2015年6月、孫正義社長が後継者指名をしたのを契機にソフトバンク(株)顧問を退任。詳しいプロフィールはこちら
インターネットの世界は参入障壁が低いため、一度始めたらスピードと、規模で一気呵成に広めることが、成功のポイントとなります。
例えば、アリババへの投資の際、ジャック・マー氏自身は、地元杭州域内での事業のため2億の出資を希望したのに対し、孫正義氏は20億円を出資し、全中国でやるよう促しました。
元グーグル日本法人社長の辻野晃一郎さんも、同様に「世界にスケールする」というキーワードをよく使われます。グーグルはイノベーティブな企業として有名ですが、新商品の提案をする際、米国の幹部によく問われたそうです。
「そのアイディアは世界にスケールするのか?」
イノベーションとは広く普及することを前提とするため、世界にスケールしなくてはならないという考え方が根底にあるのです。
<辻野晃一郎(つじのこういちろう)>84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了し、ソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタル TV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。
翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社し、アレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長兼CEOを務める。詳しいプロフィールはこちら
世界に挑む中小企業
とはいえ、ソフトバンクもグーグルも世界的な大企業。それもインターネットの世界での話。
日本の企業は99%が中小企業で、主にはサービス業と製造業が中心という中で、世界にスケールと言っても・・・・・・というのが正直なところです。
しかし世界に挑戦する中小企業も存在します。
例えば、ハンドバッグブランドのバルコス(barcos)。鳥取は倉吉に本社を置きながら、メイドインジャパンのブランドとしては珍しく、伊勢丹新宿本店や、アメリカ最高級百貨店「ニーマン・マーカス」等で取り扱われています。
バルコスは1991年創業。
創業者である山本敬さんは、当初より世界で認められるブランド作りを目指してきました。従業員数37名ながら、2007年には最新トレンドを入手するためイタリア事務所を設立。そこに日本的な感覚や技術を取り入れた商品開発を行い、国際的な展示会に積極的に参加してきました。
その結果、世界最大規模のハンドバッグ展示会「MIPEL(ミペル)」に日本ブランドとして唯一継続出展し、デザイン賞等過去3回受賞。こうした世界的な展示会で認められることで、世界から注目を集めています。
バルコスはハンドバックというニッチな分野を取り扱っています。しかし当初より「世界へに通用する」ことを目指してきました。
<山本敬(やまもとたかし>1991年、地元倉吉にUターンし、バルコスを創業。高品質の商品をスピーディーに供給する独自のスキームで事業を拡大する一方、日本らしさや、日本の職人技術とクリエーションをコンセプトとしたオリジナルブランドも展開。創業二十数年で世界的ブランドへと成長させた。現在は、大手百貨店からセレクトショップまで様々な商材を展開。またOEM、ODM等多岐多様に渡る販路に商材を提供し、倉吉から世界に向けて日本ブランドを発信し続けている。詳しいプロフィールはこちら
「ニッチを狙うな」というのは、ある意味ネットビジネスならではであり、そうでない中小企業にとっては少々極端な話です。
ただしその裏にある「世界にスケールするかどうか」の視点は、ボーダーレスな世界、人口減少時代の日本においては特に、企業規模や業界に関わらず、これからのビジネスを考える上で、共通する成功のポイントかもしれません。