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2017年6月 アーカイブ

2017年6月 5日

「そのアイディアは世界にスケールするのか?」という問い

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前回「すき間」を狙うHISの視点についてお伝えしました。

すき間=「ニッチ」。他人がやっていないところを見つけ、それに工夫して取り組むのか。「何か"ニッチな新しいビジネス"は無いか」と日々考えを巡らせている方も多いかもしれません。


しかしニッチビジネスを攻める!という潮流がある一方で、逆に「ニッチは狙うな」と提言をする人もいます。

ニッチを狙うな?ネットビジネスの世界から

ソフトバンク前社長室長の嶋聡さん。孫正義の参謀と呼ばれ、同社急成長のキーパーソンとなった人物です。嶋さんは言います。

「すき間はすき間のまま終わることが多い。」

ソフトバンクといえば積極的な投資戦略が有名です。その中で嶋さんは、ソフトバンクがインターネットの世界で同社が成功している理由として、その事業が「世界にスケールするかどうか」を重視していることを挙げます。

<嶋聡(しまさとし)>松下政経塾二期生として松下幸之助塾長に直接教えを受ける。1996年から2005年まで衆議院議員。3期連続当選の後、「政から民へのトップランナーになりたい」と孫正義社長を補佐するソフトバンク(株)社長室長に就任。以後、2014年までの8年3千日でソフトバンクを売上高1.1兆円から6.7兆円のグローバル企業に飛躍させ「孫正義の参謀」と呼ばれる。2015年6月、孫正義社長が後継者指名をしたのを契機にソフトバンク(株)顧問を退任。詳しいプロフィールはこちら

インターネットの世界は参入障壁が低いため、一度始めたらスピードと、規模で一気呵成に広めることが、成功のポイントとなります。

例えば、アリババへの投資の際、ジャック・マー氏自身は、地元杭州域内での事業のため2億の出資を希望したのに対し、孫正義氏は20億円を出資し、全中国でやるよう促しました。

元グーグル日本法人社長の辻野晃一郎さんも、同様に「世界にスケールする」というキーワードをよく使われます。グーグルはイノベーティブな企業として有名ですが、新商品の提案をする際、米国の幹部によく問われたそうです。

「そのアイディアは世界にスケールするのか?」

イノベーションとは広く普及することを前提とするため、世界にスケールしなくてはならないという考え方が根底にあるのです。

<辻野晃一郎(つじのこういちろう)>84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了し、ソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタル TV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。 翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社し、アレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長兼CEOを務める。詳しいプロフィールはこちら


世界に挑む中小企業
とはいえ、ソフトバンクもグーグルも世界的な大企業。それもインターネットの世界での話。


日本の企業は99%が中小企業で、主にはサービス業と製造業が中心という中で、世界にスケールと言っても・・・・・・というのが正直なところです。

しかし世界に挑戦する中小企業も存在します。

例えば、ハンドバッグブランドのバルコス(barcos)。鳥取は倉吉に本社を置きながら、メイドインジャパンのブランドとしては珍しく、伊勢丹新宿本店や、アメリカ最高級百貨店「ニーマン・マーカス」等で取り扱われています。

バルコスは1991年創業。

創業者である山本敬さんは、当初より世界で認められるブランド作りを目指してきました。従業員数37名ながら、2007年には最新トレンドを入手するためイタリア事務所を設立。そこに日本的な感覚や技術を取り入れた商品開発を行い、国際的な展示会に積極的に参加してきました。

その結果、世界最大規模のハンドバッグ展示会「MIPEL(ミペル)」に日本ブランドとして唯一継続出展し、デザイン賞等過去3回受賞。こうした世界的な展示会で認められることで、世界から注目を集めています。

バルコスはハンドバックというニッチな分野を取り扱っています。しかし当初より「世界へに通用する」ことを目指してきました。

<山本敬(やまもとたかし>1991年、地元倉吉にUターンし、バルコスを創業。高品質の商品をスピーディーに供給する独自のスキームで事業を拡大する一方、日本らしさや、日本の職人技術とクリエーションをコンセプトとしたオリジナルブランドも展開。創業二十数年で世界的ブランドへと成長させた。現在は、大手百貨店からセレクトショップまで様々な商材を展開。またOEM、ODM等多岐多様に渡る販路に商材を提供し、倉吉から世界に向けて日本ブランドを発信し続けている。詳しいプロフィールはこちら

「ニッチを狙うな」というのは、ある意味ネットビジネスならではであり、そうでない中小企業にとっては少々極端な話です。

ただしその裏にある「世界にスケールするかどうか」の視点は、ボーダーレスな世界、人口減少時代の日本においては特に、企業規模や業界に関わらず、これからのビジネスを考える上で、共通する成功のポイントかもしれません。


2017年6月27日

経営理念を現場に浸透させる「制服」のチカラ

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現場との対話の回で、カッシーナ元社長・高橋克典さんが、配送部隊に「制服」を支給したストーリーを紹介しました。


高橋さんの企業の現場におけるミュニケーションの考えは、コラムでも紹介されていますが、経営者が経営方針を一生懸命考える一方、実は現場はよく理解できていない。そこで「制服」がサービス向上の効果を発揮する。というブランディングの視点の1つです。


さて、これはカッシーナでのお話。見方によれば、「カッシーナって高級家具の会社でしょ。外資系企業の外国人従業員の話でしょ。」というご意見も出るかもしれません。


そこでもう1例、もう少し身近なところでご紹介したい「制服でサービス向上を実現させた事例」があります。


制服のリニューアルが生み出した「7分間の奇跡」

JR東日本の新幹線の清掃を行う「JR東日本テクノハートTSSEI」。


TESSEIは、短い時間で新幹線の清掃を行う様子は「7分間の奇跡」として、CNN等の海外メディアに取り上げられるなど、質の高いサービスが注目されています。


そんなTESSEIの質の高いサービスを生み出す仕組みを生み出したのが、矢部輝夫さんです。


矢部さんがTESSEIの経営企画部長に就任した当時、同社は従業員の定着率も低く、事故やクレームも多い状態でした。会社に活力を感じられなかったそうです。


しかし矢部さんが現場を見て回ると、各々一生懸命掃除に取り組んでいます。「活力が無いのは、マネジメントのせいだ。」そう考えた矢部さんは、同社を単なる清掃ではなく、「トータルサービス」を提供する集団に変革させようとしました。


「掃除をする会社ではなく、旅の思い出を作る会社へ。」


スピーディーな清掃だけでなく、1列に並んでのお辞儀など、新幹線ホームでご覧になったことのある方も多いと思います。


制服で現場に理念を伝える

とはいえ当時の従業員=いわゆる「掃除のおばちゃん」たちは、このトータルサービスの考えに対し、「私たちの仕事は掃除。なんでそんなことをしなくてはならないのか。」と、受け入れなかったそうです。


話は変わりますが、ヤマト運輸元会長の都築幹彦さんも、宅急便という新規事業を始める際の3つの壁の1つとして、「社内の反対」を挙げています。新しいこと、変革を始める場面に置いては、社内の反対はつきもの。経営における理念・ビジョンの大切さは注目されていますが、それを実現させるのがいかに大変かを物語るエピソードです。


こうした状況を振り返り矢部さんは、理念を実現させるための「仕組み」が重要と言います。そこで理念を現場に浸透させるための手法の1つとして、清掃チームの「制服」をリニューアルします。


制服が従業員の意識を変える

理念を浸透させるためになぜ「制服」なのでしょうか?


それまでの制服はダボダボした「つなぎスタイル」のザ・清掃員という制服でした。そこで矢部さんは、カタログの中から清掃業ではなく、「サービス業向け」のユニフォームを選び、シャツ・パンツ・帽子のスタイルへと変えたのです。


現場に新たな制服を支給すると、乗客からの評判も良く、意識は次第に清掃→サービスへ変わったと言います。


勿論、意識改革の背景には評価制度などの数多くの工夫がありますが、制服は重要な戦略の1つだったのです。


制服効果は万国共通?

以前、グリコのポッキーのインドネシア進出がテレビの特集で取り上げられていました。


マネジメントしにくい現地の販売員を団結させるため、「Pocky」と入った赤いポロシャツの制服を支給したところ、格好良いと好評で現場のモチベーションが上がったと言います。


制服に限らず私たちは日常生活でも、下したての服を着ると気合いが入るという感覚を持っています。


これらの制服・ユニフォームがもたらす効果は、心理学の世界でも実証されているそうですが、冒頭のカッシーナのエピソードしかり、万国共通なのかもしれません。



今回は、制服による意識改革とサービス向上の事例をご紹介しました。


逆に制服が格好悪い・不評となると、従業員満足やサービスを低下させるとも言えます。日本一休みが多い会社として有名な未来工業では、社員の「ダサイ」という不満から制服を無くしてしまったという話も。


何気なく目にする制服。実は経営理念を表現する大事なツールと言えます。


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