福岡県の博多にて、作家の立松和平さんの講演同行のご紹介です。
立松さんは、これまでに様々な名誉ある賞を受賞されてきたほか、世界各国を旅する行動派作家としてもご存知かと思います。近年は、自然環境保護にも積極的に取り組んでいらっしゃいまして、自然との共生に向けて様々な活動をされております。
この日は医学関係者の方々に向けた講演会で、『風・山・川と語ろう』というテーマで、環境問題を切り口に人の命の尊さまで掘り下げてお話下さいました。
立松さんは15年ほど前から自身の故郷でもある栃木県の足尾で植林活動をされており、講演会の中でも足尾に緑を甦らせる運動について語られました。
足尾銅山鉱毒事件をきっかけに土壌が汚染され、植物が生きるための表土がなくなってしまった足尾の地に、再び緑を取り戻したいという立松さんの強い想いに多くの方々が賛同され、今では1500人もの方々が参加されるそうです。広大な山のうち、足尾のほんの一角での活動は確かに微々たるものかもしれないが、こうした一人ひとりの心のこもった植林活動こそが、心の豊かな社会を育んでいくとおっしゃっていました。植林とは人の心に樹を植えるようなもので、心に植えられた樹はどんどんと育まれ、やがて感謝の心として人を豊かにするのだと。
『心に樹を植える』― 心に深く響くメッセージでした。
緑あふれる自然とのかかわりを通じて、命のはかなさ、美しさなど、生命の尊さを人は学ぶことができるということなのだと思います。
『足元を照らすことの大切さを決して忘れないでください。』
これは人の命を預かる医学関係者の方々へ最後に贈られたメッセージで、どんなにはかない生命をも尊い存在として真剣に向かい合っていただきたいという立松さんの切なる想いだったと想像します。
穏やかな語り口に秘められた「生」への強い想いこそ、立松さんが人々の心をひきつけている所以なのだと実感させていただきました。